PRODUCTION NOTES

リドリー・スコットが出版前に映画化権を獲得

 アカデミー賞®受賞監督であるリドリー・スコットも、トム・ロブ・スミスの小説「チャイルド44」に惚れこんだ一人だった。壮大なスケールと緻密な人物描写に刺激を受けたというスコットは、9年前にロンドンにある自身の製作会社にスミスを招いた。
その日のことをスミスは、「ちょっとシュールな体験だった」と回想する。「出版されるかどうかも定かではない本の映画化について、リドリー・スコットと話し合うなんてね。それも『グラディエーター』や『エイリアン』の小道具に囲まれて。リドリーは映画化について、素晴らしいアイデアをたくさん語ってくれたよ。」

スウェーデン史上最高興収を記録した監督、ダニエル・エスピノーサ

 スコットは、当初は自ら監督を務めるつもりだった。だが、スウェーデン映画史上最高の興行収入を上げた、ダニエル・エスピノーサ監督の『イージーマネー』を見て考えを変える。創意工夫に満ちたアクションとスタイリッシュな編集に感服したスコットは、エスピノーサこそ本作の監督にふさわしいと確信したのだ。
オファーを受けたエスピノーサは、脚本にアカデミー賞®ノミネート経験のあるリチャード・プライスを起用する。物語に描かれる個々の出来事は、スターリン体制下のソ連という特殊な時代背景に根差している。しかし、物語を貫くのは、「全体主義国家がいかに人間の精神を崩壊させていくか」という普遍的なテーマだ。

演技とアクション両方に優れた主演俳優、トム・ハーディ

 プロデューサーたちは、主人公のレオ・デミドフ役に、ドラマティックな瞬間から荒々しいアクションシーンまで、幅広い要求に応えられる俳優を必要としていた。また、非人間的状況の中で人間性を求めて闘うレオの内面の葛藤と陰影が表現できなければならなかった。
 その結果、『ダークナイト ライジング』の悪役ベインで世界的にブレイクしたイギリス人俳優トム・ハーディが選ばれた。ハーディは彼の世代を代表するカリスマ的才能に溢れた俳優だ。脚本を気に入ったハーディは、レオのモラルの複雑さに興味を持ったと語る。

屈強な女ヒロインからの新境地、ノオミ・ラパス

 リドリー・スコットは、『プロメテウス』の主演にノオミ・ラパスを起用した際に、本作への出演を持ちかけた。ラパスは、エスピノーサが監督すると知り期待が膨らんだという。また、ハーディとの再共演も好材料だった。
 本作でラパスは、穏やかな教師ライーサ・デミドフ役を演じている。彼女が世界的知名度を得るきっかけとなった『ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女』の屈強な女主人公役からの劇的な脱却だった。ライーサの臆病さを理解するために、ラパスはスターリン体制下で市井の人々が日常的に味わっていたパラノイア的恐怖を想像したという。

腐敗から目覚める役に挑む名優、ゲイリー・オールドマン

 疲弊した地方都市の警察署長ネステロフ役は、ゲイリー・オールドマンに依頼された。ネステロフは、多くの人々がスターリン体制下を生き抜くために経験した、モラルの葛藤を体現する存在だ。オールドマンはこう語る。「あまりに多くの恐怖が蔓延していたので、ネステロフのような人物はあらゆる物事から目を背けていた。倫理や感情という面において、ある種の拘束衣を着せられていたと言っていい。党の指針から少しばかりズレたことを考えただけで、スターリンに消されてしまうんだ。ネステロフは自分のために居心地の良い小さな巣を築いていた。だがレオの登場によって、そのすべてが脅かされる。」そして、思いがけず立ち上がることになる男の心情を、オールドマンが説得力たっぷりに演じている。